授業実践FAQ

プログラムの対象について

Q.『勇者の旅』プログラムの対象学年について教えてください。

A.『勇者の旅』のベースになっている認知行動療法は、認知発達が一定レベルに達した子どもに適用可能とされています。『勇者の旅』の予備的研究(Urao et al., 2016)には小学4~6年生が参加しましたが、4年生から(特にプログラムの後半部分)「やや難しかった」「来年以降にまた受けたい」などの声が上がりました。以上のことから、対象学年は原則として5年生以上としております。但し、4年生でプログラムの前半部分に取り組み、5年生以降で後半部分に取り組む、という形での実践も可能です。「予防教育」の観点からは、なるべく早い時期にプログラムを導入することの意義も大きいため、対象学年・学級の認知発達レベル等に鑑み、開始時期についてご検討ください。

Q.『勇者の旅』を中学校・高等学校で実施することは可能ですか?

A.当初は小学生向けに開発したプログラムですが、2021年度より中高生版のワークブックもお使いいただけるようになりました。中高生版ワークブックを用いた指導者養成研修は行っておりませんが、千葉県内の公立中学校で実際に行われた授業実践の動画をwebサイトの専用ページに載せておりますので、養成研修受講後(授業実施前)にぜひご視聴ください。
なお、中学校・高等学校では、効果的な実践につなげるために、入学後の早い時期(1年生の夏休み前)にプログラムの実施をお勧めします。新しい環境へと変わって不安が高まっている時期に「不安とのつき合い方」を体験的に学ぶことで、その後の学校生活を安心して過ごすことにつながると考えています。なお、高校で実践例はまだ少ないため、高校で実践をお考えの場合は事前にご相談ください。

Q.『勇者の旅』を通常学級の授業以外で実施することは可能ですか?

A.『勇者の旅』は、小中学校の通常学級に在籍する児童生徒全員を対象に、授業として実施する予防教育プログラムです。このため、授業に参加することができない(保健室登校や不登校等の)子どもに対し、個別指導の形でプログラムを用いることはできません(風邪等で授業を欠席した子どもに対して、当該授業について個別フォローすることは問題ございません)。
また本プログラムは、特別な配慮を必要とする子どもへの支援(治療)プログラムではありません。このため、特別支援学級等でプログラムを実施することはできません。但し、特別支援学級等に在籍する本人および保護者が、どちらも通常学級でのプログラム参加を希望している場合には、参加することが可能です。そのような子どもがいた場合には、「特支・通級・合理的配慮が必要な児童生徒について(様式5)」を用いてお知らせください。

プログラムの実践計画・準備に関して

Q.授業時間をどのように確保し、どの教科に位置づければ良いのでしょうか?

A.多忙な学校現場において、年間8~10コマの授業時間を確保するのは大変なことで、まずは管理職および教職員の理解が必要になります。プログラム開始前に、授業時間確保や教科の位置づけ等についてよく話し合い、校内でコンセンサスを得てください。なお、これまでにプログラムを実施した学校の多くは、「総合的な学習の時間」「学級活動」「保健体育」「道徳」などの時間に位置づけて『勇者の旅』の授業を実践されています。
8~10コマの授業時間確保がどうしても困難な場合、朝学活の20分×2回を1ステージとして実践する方法もあります。但し朝学活で実施する場合も、ステージ4『勇者の階段』とステージ7『勇者の考え』については、45~50分授業で実施していただくようお願いいたします(朝学活実施用のワークブックや指導案はありません)。

Q.プログラム実践の頻度やアンケートの実施時期は、どのようにすれば良いですか?

A.『勇者の旅』は、週1回の実践を前提に作成しておりますが、週1回~月1回のペースであれば、間隔を空けていただいても構いません(間隔を空けることでモチベーションの維持が難しくなりますが、ホームワークにじっくり取り組むことで学びが定着しやすくなる可能性もあります)。
なお、プログラム実施前後のアンケートについては、①授業開始前、②授業終了直後、③1~3か月後フォローアップの計3回お願いしています。なるべく当該年度の年度末までに、1~3か月後フォローアップアンケート(3回目)が終了するように授業実践計画を立ててください。年度末までに3回目のアンケート実施が難しい場合には、あらかじめご相談ください。

Q.プログラムの流れや実践回数は、どのように考えれば良いでしょうか?

A.『勇者の旅』は、学習が段階的に積み重ねられるように構成しておりますので、順番を入れ替えたりせず、ステージ1から順に進めてください(部分的にステージを取り出したり、複数のステージをまとめて実施したりすることはお控えください)。小学校の場合は1回45分×10回、中学・高校の場合は1回50分×9回で実践していただくことが理想ですが、ステージ9・10(おさらいやふりかえりのステージ)については、朝学活の時間を使って分割実施したり、ワークの部分を宿題として時間短縮するなど、各学校で工夫して取り組んでいただいても構いません。

Q.教具や授業はどのように準備すれば良いですか?

A.『勇者の旅』webサイトに、各ステージのイラスト・文字素材を用意しておりますので、必要に応じてダウンロードしてご活用ください。
なお、『勇者の旅』の授業は、基本的にそれぞれの先生方の得意分野を生かしながら、学級の状態を踏まえて創意工夫していただくことが重要と考えております。ワークブックと指導案の内容には沿いつつも、当該学級の児童生徒にとって理解しやすい授業準備・授業実践を工夫していただけたらと思います。

Q.『勇者の旅』の授業は担任以外が行うことも可能でしょうか?

A.『勇者の旅』は、事前に指導者養成研修を受講された方であれば、担任以外の先生に実施いただくことも可能です(交換授業で他クラスの先生が担当するのはもちろんのこと、養護教諭、スクールカウンセラー、管理職の先生などが授業を担当されている学校もあります)。担任が授業を行う方が効果的か、それとも担任以外の先生が授業を行う方が効果的か、についてはケースバイケースですので、子どもたちの様子を踏まえ、校内でご検討ください。

Q.プログラム非実施学級(アンケートのみ)について詳しく教えてください。

A.『勇者の旅』の効果を検討するために、原則としてプログラム実施学級の1つ下(または1つ上)の学年を、プログラム非実施学級(実施学級と同じ時期にアンケートに答える対照群)として設定していただきます。非実施学級に設定しようとした学年がすでに『勇者の旅』の授業を行っている場合には、これまでに授業を実施していない別の学年を非実施学級として設定してください(非実施学級の設定にお困りの場合はご相談ください)。なお、非実施学級の先生方が指導者養成研修を受講されていない場合には、アンケートの実施方法や保護者向け説明文書の配布等について、実施学級の先生(リーダー教員)からの伝達をお願い致します。

Q.プログラムやアンケートの実施に際して、ICTの活用はできますか?

A.プログラムについては現在、e-learning版『勇者の旅』の開発と効果検証に着手しております。e-learning版の効果が確認できましたら、そちらを予防教育教材としてお使いいただくことも可能となる予定です。
またプログラム実施前後のアンケートについては現在、児童生徒の端末からWeb上で実施いただいています。もし、校内ネット環境のセキュリティーが厳しいなどの理由によりWebアンケートが実施できない場合には、紙媒体でアンケートを実施いただくことになります(この場合、児童生徒の回答結果を全てExcelファイルへご入力いただく必要がございますので、あらかじめご了承ください)。

プログラムの実践方法に関して

Q.授業実践する上で、指導者(担当教員)としての心構えがあれば教えてください。

A.『勇者の旅』の授業では、指導者側が不安という感情を「(自分自身も含め)誰もがあたり前に持つ自然な感情」と捉えながら授業を進めることで、子どもたちも安心して自己の不安感情に向き合えると考えます。特に不安の高い子どもにとっては、「先生も周りの友達も、みんな自分と同じように不安を感じているんだ」ということを知るだけでも、安心につながることがあります。先生ご自身も、子どもたちと同じように日々不安を経験する1人の人間として、自然体で授業を進めていただければと思います。

Q.子どもたちに発言させたり、グループワークを取り入れたりしても良いですか?

A.『勇者の旅』は、子どもたち一人一人が自己の内面に向き合う体験学習です。このため、子どもたちの中にある“自分の内面を他の人に知られたくない気持ち”を尊重する必要があります。『勇者の旅』の授業中、子どもの不安に触れるようなワークについては指名せず、自主的に挙手した子どものみに発表してもらうようにしてください。また、グループワークは必要最低限とし、個別ワークの時間を十分確保するようにしてください。

Q.プログラム参加に積極的でない子どもがいた場合、どうすれば良いですか?

A.本プログラムは授業の一環として、クラス全員を対象に実施していただきますが、プログラムに積極的に参加していない様子の子どもがいても、その子なりの参加の仕方を尊重し、温かく見守っていただきますようお願いいたします。

Q.内容の理解やワークの進度に個人差が出た場合、どうすれば良いですか?

A.『勇者の旅』が他の教科と異なる点の1つに、“評価”を目的としないという点が挙げられます。『勇者の旅』は、子どもたちがそれぞれの理解度や進度で取り組むことが大切で、全員が同じように理解し同じペースで進んでいくことを目指す必要はありません。個々の理解度やペースをできる限り尊重してください。なお、プログラムへの理解が難しい子どもがいる場合には、T1, T2体制で授業を行うことや、授業後個別にフォローすることなど、可能な範囲で個別に支援してください。

Q.冒頭の「プロローグ」はどのように実施すれば良いでしょうか?

A.「プロローグ」の理解は、プログラムの目的をクラス全体で共有するために重要です。『勇者の旅』の授業が始まる前に学活等の時間を15分程確保していただき、「『勇者の旅』ってどんな旅?」の項目を1つ1つ読み上げながら、プログラムの目的を全員で共有してください。「プロローグ」を丁寧に扱うことにより、子どもたちが積極的にプログラムへ取り組む姿勢を作ることができると思います。
なお、プロローグの内容を子どもたちに分かりやすく伝えるために、『勇者の旅』導入用アニメーション動画も作成しております。『勇者の旅』webサイトのトップページよりご覧いただけますので、併せてご活用ください。

Q.「自主トレ」はどのように取り組ませれば良いでしょうか?

A.認知行動療法の心理臨床においては、面接で扱った内容が「ホームワーク」として提示されます。クライエントは、面接で行った内容を実生活の中にも取り入れる(反復学習)ことにより、徐々に適応的な考えや行動が身につき、問題が改善していきます。『勇者の旅』でも、毎ステージ「自主トレ(ホームワーク)」を用意しており、実生活の中での反復学習を推奨しています。各授業の最後に必ず、当該ステージの「自主トレ」についてご説明いただき、学校もしくは自宅等で取り組むようお声かけください。ただし、「自主トレ」は他の宿題と違って義務ではありませんので、提出しなくとも注意や叱責はせず、次回の「自主トレ」に取り組めるよう励ましてください。
また、プログラムの効果を維持させるために、例えば学習振り返りシートにミラクルポイントの記入欄を設けたり、学校行事の前に皆で呼吸法や筋弛緩法の復習をしたりするなど、『勇者の旅』で学んだことを学校生活の中で活用できるよう、「自主トレ」以外でも工夫してください。

Q.「自主トレ」の準備・回収・確認の方法を教えてください。

A.「自主トレ」はワークブックの巻末に綴じ込んでいますが、回収や返却をしやすくするために、あらかじめ人数分コピーして配布することをお勧めします。また、「自主トレ」はなるべく毎ステージ回収して、記載内容の確認とフィードバックをお願いいたします。コメント等を入れる場合には、肯定的なフィードバックを心がけてください。
各回授業の導入部分では、「自主トレ」の取り組みを振り返る時間を作っていただき、子どもたちがどの程度「自主トレ」に取り組めたかを確認するとともに、前回の授業内容の復習につなげていただければと思います。また、「自主トレ」に取り組む動機づけを高める工夫として、ぜひ「アイテムシール」もご活用ください(例:自主トレを提出した子どもにシールを渡すなど)。

Q.「勇者の階段」の作成は、子どもによっては難しいと思うのですが…。

A.ステージ4は難しいステージですので、できればT1, T2の二人体制で行うことをお勧めします。但しステージ4の授業の目的は、階段を7段完成させることではなく、「自分に合った階段を作成し少しずつのぼっていくことで不安を小さくできる場合があるという知識を得る」ことです。階段づくりが難しい子どもがいた場合は無理をさせず、「ガイドブックの階段例を真似したり、書き写したりするだけでも構わない」とお伝えください。また、自分で階段を作成できている子どもについては、「目標が高すぎて登れない階段になっていないか?」「克服する必要のない階段を作っていないか?」などの確認もお願いいたします。

Q.「勇者の階段」の自主トレは、どのように進めれば良いでしょうか?

A.ステージ4に限りませんが、『勇者の旅』の目的は、授業を通して不安の問題をなくすことではなく、不安とうまくつき合うための方法を「知識として蓄える」ことです。ステージ4以降は自主トレとして、子どもたちに少しずつ「勇者の階段」に挑戦してもらいますが、この挑戦はあくまでも任意ですので、「階段をのぼってみたい!」という意欲がある子どもにのみ、挑戦してもらうようにしてください。
ステージ5以降、毎回の授業の冒頭で「どのくらいのぼれたか」を口頭およびステージ4の自主トレプリントを用いて確認をお願いしていますが、その際にも、階段をのぼることを強く促さないようにしてください。

Q.『勇者の旅』を進める上で、分からないことや困ったこと、子どもの様子で気になることなどが出てきた場合、どうすれば良いでしょうか?

A.『勇者の旅』を進める上でお困りのことがありましたら、プログラムの担当者まで、お気軽にご連絡ください。緊急の場合はお電話で、そうでない場合にはメール(yuushanobati@chiba-u.jp)にてご連絡ください。なお、ご相談いただく際は、報告・相談シート(様式2)をご活用ください。

その他

Q.小学校で『勇者の旅』を受けた子どもたちを、中学校でもフォローしていくために、どのような工夫ができますか?

A.小学校で『勇者の旅』の授業を受けた子どもたちも、時間経過とともに学んだ内容を忘れてしまったり、中学校に入って新たな不安に直面したりするかもしれません。そこで、小学校で『勇者の旅』を受けた子どもたちが、中学校に入ってから『勇者の旅』の内容を思い出し、中学生として新たな不安に向き合ってもらうために、フォローアップ授業の教材(ワークシート・指導案)を用意しています。中学校区の小学校全体で『勇者の旅』が実施されている地域では、ぜひフォローアップ授業(全3回)の導入もご検討ください。

Q.『勇者の旅』の授業実践の経験を、今後どのように生かせるでしょうか?

A.養成研修受講後、勤務校にて全8~10ステージの授業実践を経験され、プログラムの内容と意義をご理解いただいた先生方には、その後、指導者養成研修の校内研修ファシリテーター等をご担当いただきたいと考えております。すでに授業実践を経験された先生方が、新たに授業実践される先生方のサポーターとなっていただき、将来的には各地域における本プログラム実践のリーダー的な役割を担っていただくことをイメージしております。プログラムを各校で定着させ、周辺校や地域へと普及していくためにも、より多くの先生方に『勇者の旅』についてご理解いただけることを願っております。

Q.授業時間確保等の問題ですぐに実践ができません。ワークブックの一部を掲示物や配布物にしたり、プログラムのエッセンスのみを授業等で伝えたりしても良いでしょうか?

A.これまでの取り組みから、プログラムの一部分を抜き出して実施しても、不安低減効果が得られないことが明らかになっています。また、プログラムの一部分のみが独り歩きすることで、『勇者の旅』全体の目的や意図とは異なる伝わり方となるリスクもあると考えています。このため、プログラムの一部のみを掲示物や配布物にすることはお控えください。
なお昨今、認知行動療法に関する書籍・情報等を容易に手に入れることが可能です。それらを参考にしながら、先生方が子どもたち向けのオリジナル資料を作成されることは問題ございません。オリジナル資料等を作成される際には、くれぐれも『勇者の旅』の著作権を侵害することのないようご留意ください。判断に迷われる場合には、必ず事前にご相談ください。

Q.子どもたちの不安を予防するためには、集団内での比較や大人による評価に支配されている学校生活環境そのものを見直さなければならないと思うのですが…。

A.『勇者の旅』は、子どもの不安の問題を予防する手段の1つとして開発されましたが、「このプログラムさえ行えば、子どもの不安の問題が完全に予防できる」というものではありません。子どもの不安には、子どもをとりまく環境要因も非常に大きく関わっていますので、いくら子ども自身が『勇者の旅』の知識を身につけて行動しても、そこが子どもにとって安心できない環境ならば、当然不安の問題が出現・維持・悪化してしまいます。本プログラムの実施にあたってはぜひ、すべての子どもにとって不安の生じにくい学級・学校環境づくりも並行して進めていただきますよう、お願いいたします。

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