摂食障害研究|認知行動療法について

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1.過食症

摂食障害は、その言葉の表す通り「食物を摂ること」に関する考え方や行動に問題が生じてしまう疾患です。 摂食障害は拒食症と過食症に大きく分けられます。 ここでは、過食症について述べます。( 専門用語では神経性大食症または神経性過食症と言われますが、ここでは一般的にわかりやすい‘過食症’という言葉を使います)

過食症とは、誰が見ても明らかに多い量の食べ物を、コントロールできない感覚を伴って食べてしまうことを特徴とします。 そのような経験は誰しも持っていると思いますが、過食症と診断されるのは、そのようなエピソードが、週に1回以上、少なくとも3ヶ月以上続いてしまう場合です。 また、過食症に限らず摂食障害では、自分自身に対する評価が低く、痩せていることに価値をおき、体型や体重の数値へのこだわりが強いという特徴もあります。 さらに、太ることに対する不安から、食べた後は体重の増加を防ぐための代償行動(嘔吐したり下剤を使ったり)を生じます。
(注)もし、上記のような特徴はあるけれど嘔吐はしないという場合には、診断は「過食性障害」となり、過食症とは異なります。

【過食症に推奨される治療法】

より質の高い治療指針を示してくれるイギリスの国立医療技術評価機構(NICE)の発するガイドラインは、過食症においては、まず第一に心理的治療、次いで薬物療法を推奨しています。 心理的治療の中では、認知行動療法がもっともエビデンスの高い(グレードA)治療法となっています。

【過食症の症状維持の悪循環】

イギリスのフェアバーン博士が提唱した過食症の最初の認知行動モデルは患者さんにとってもわかりやすく使いやすいモデルです(図1)。 過食症の患者さんには、過食症が発症する前に過剰なダイエットで痩せてしまった時期があることが多いです。もともと自分自身に対する評価が低いため、それを補おうとする認知の特徴として自己コントロールに重きを置き、完全主義的な特徴がみられます。 しかし、過剰なダイエットは生理学的には長く続きません。ある時、リバウンドとして過食してしまう時期がくるのは当然のことです。
自分をコントロールできている間は問題を認識しませんが、そのコントロールが破綻して体重が増えることによってコントロールのできなさに対する罪悪感やこのまま太り続けるのではないかという不安と恐怖が出てくるので、排出行動(自己誘発嘔吐や下剤の乱用など)で体重の増加を防ぐようになります。 そういった行動が繰り返されることにより、否定的な感情が生じ、ますます自分自身に対する評価が低くなるという悪循環が維持されてしまいます。

図1過食症の古典的な認知行動モデル【図1】

【過食症の認知行動療法】

過食症に対する認知行動療法は、過食の回数と排出行動の回数を軽減することを主目的とします。 過去の報告では、認知行動療法を最後まで終えた人の40〜50%は過食と排出行動の完全消失に至ったとの報告があります。

私たちは2018〜2019年に、テレビ電話を用いて患者さんには自宅にいながら、対面での認知構想療法と同じ内容のセッションを受けていただくという臨床研究を実施しました。 まずは、遠隔での認知行動療法が安全に行えるのかを検証するためのものでした。 結果は、有害事象なく、安全に行えるということがわかりましたが、 さらに、これまでの対面での認知行動療法の効果に劣らないのだということも示唆されました。 そこで、今回はさらに発展させて無作為割付での遠隔認知行動療法の臨床研究を開始しています(詳細はこちらを、被験者募集はこちらをご覧ください)。


2.拒食症(専門用語では神経性やせ症または神経性無食欲症と言いますが、ここでは「拒食症」という言葉を用います)

過食症に対しては、認知行動療法の有効性が示されている一方で、拒食症の方に対しては標準化された治療法はまだ確立されていません。 その理由のひとつとして、「低体重であること」が影響しています。痩せているということは拒食症の方にとっては問題のない状態ですから、治療にも消極的になってしまいがちです。 やせが進行している状態では、脳にも栄養が届きませんから、正しく考えるということが難しくなってきてしまいます。 ですので、これまでの治療法は、治療に取り組める状態を作るために少しでも体重を増やしていくことが最優先でした。 しかし、体重を回復させたい治療者と少しも増やしたくない患者さんの間には大きな目標のズレが生じてしまい、治療も途中で中断してしまうケースも多いのです。
近年、摂食障害(とくに拒食症)の患者さんにセットシフティングとセントラルコヒーレンスという2つの認知機能が、健常者に比べて低いということがわかってきました。 セットシフティングとは思考の切り替えやすさ、すなわち認知の柔軟性のことです。 柔軟性がないと「白黒思考」になってしまいます。セントラルコヒーレンスは全体統合性と言って、入ってくる様々な情報を全体の中で処理して統合していく能力を指します。 例えば、話のストーリーを簡潔にまとめられるなどで、この能力が脆弱であると「木を見て森を見ず」のような思考スタイルになってしまいます。
そこで、症状(食行動のあり方など)に焦点を当てず、これら2つの認知機能を高める認知機能改善療法を行っています
この治療法は、もともとは統合失調症の患者さんの認知機能障害を改善させる治療法として実施されてきたものをロンドン大学のケイト・チャントゥリア先生が拒食症に対する介入法として確立しました。 日本には国際医療福祉大学の中里道子先生らが紹介、日本語版のマニュアル「神経性無食欲症に対する認知機能改善療法」を作成し、千葉大学を実践現場に導入しています。


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