プログラム概要

概要

このプログラムは、厚生労働省の難治性疾患制作研究事業、「難治性疾患等を対象とする持続可能で効率的な医療の提供を実現するための医療経済評価の手法に関する研究(H29-難治等(難)-一般-062)」の分担研究として、千葉大学で開発・検証されました。

公開する2つのプログラムは、主に成人(18歳以上)の慢性疼痛患者を対象とする認知行動療法プログラムであり、痛みの完全除去ではなく、痛みのマネジメントを目的としています。痛みの原因探しや、痛みが完全になくなることにとらわれず、患者自身が痛みを管理するスキルを身につけられるよう、構成されています。

患者とセラピストが同じマニュアルを用いて、一つ一つのプログラムに取り組んでいきます。患者はマニュアルをワークブックとして使用し、毎回のセッションで学んだことや挑戦したことを書き込んだり、宿題を書き込んだりする他、痛みの感じ方がどのように変化しているかの記録もしていきます。プログラムは低強度マニュアルと高強度マニュアルがあり、患者の状態や希望によっていずれのマニュアルを取り組むかを選択することができます。

本プログラムの効果

2017年~2019年、18歳以上の慢性疼痛患者を対象に、パイロットシングルアーム試験が実施されました。この試験では個別対面式での認知行動療法の効果が検証されました。その結果、治療後に痛みに関連する破局的認知(PCS)、日常生活障害度(PDAS)、不安(GAD-7)・抑うつ(PHQ-9)を改善する傾向が示唆されました。(図1)

図1 認知行動療法(プログラム)介入前後の変化量

続いて2018年から2020年、マニュアルの改変を重ね、18歳から75歳までの慢性疼痛患者を対象にランダム化比較試験が実施されました。この試験では、テレビ会議システムを利用した遠隔認知行動療法の有効性が検証されました。その結果、遠隔認知行動療法群(vCBT群)は通常診療群(TAU)と比較して、日常生活障害度(PDAS)や健康関連QOL(EQ-5D-5L)で有意な改善がみられ、さらに1日に感じる痛みの最小値(NRS)や破局的認知(PCS)についても有意傾向が示されました。(図2)

図2 遠隔認知行動療法群と通常治療群の治療終了後の群間差

現在、これらの研究成果をもとに、痛みのタイプや対象者別のプログラムの効果検証研究が進められています。

疼痛治療のための認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy :CBT)

疼痛治療は、まず身体のどこかに損傷がないか、痛みに関連する原因を探し、それに対する治療を中心に行います。一方、慢性疼痛のCBTは「不快な感覚」や「情動体験」にアプローチします。痛みは生体サインとして不可欠な身体感覚(痛覚)と、痛みから生じる苦悩(感情・認知)の両側面を持っています。両者は密接に絡み合っており、片方のケアを怠れば、もう片方へ悪影響を及ぼし、痛みを悪化させます。一般に、急性疼痛であるほど生体サインとしての要素が大きく、慢性化するにつれ苦悩の要素が大きくなります(図3)。したがって、痛み(痛覚)への対処と苦悩への対処、両方をバランスよく行うことが重要となります。

図3 疼痛治療の対象と痛み関連指標

CBTでは個人の認知、感情、身体反応、行動に焦点を当てます。これらの4要素が非適応的な(道理に合わない、うまくいかない)悪循環をつくりだしていることによって疼痛症状が悪化、持続されると考えます。CBTはこの悪循環を良循環に変えるために、各要素の状態を理解し、歪みを修正することで痛みを管理する、構造化された心理療法です(図4)。

慢性疼痛は、最初は生体サインであった痛みに苦悩が付随するようになった状態と言えます。CBTは苦悩の原因となる「ネガティブな感情や認知」を「適応的な感情や認知」に変え、痛みに振り回されずに生活できるようになることを治療目標としています。

図4 慢性疼痛を維持する悪循環
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